Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “お父さんがいっぱい”(芽吹きのころ、後日談)
 


春が来たよと浮かれていたのも何とか落ち着き、
新緑滴る皐月の風が、若草の香りを乗せて庭先からそよぎこむ。
端午の節句に取り替えた薬玉が、
尻尾のようにぶら下げた房をゆらんと揺らし、
それを見やって何を思い出したものか、
当家のうら若き御主人が、
ふっとその肉薄な口許をほころばせたところが、

「…邪魔すんぞ。」
「断ったら素直に帰ンのか。」
「そうそう世の中はお前の思う通りには回っちゃいねぇんだよ。」

真顔同士でいきなりどういう問答をしてますかと、
書の整理のお手伝いにと丁度居合わせたセナくんが、
苦笑混じりに呆れかかったものの。

 “…え?”

その乱入者が小脇に抱えていたものがあって、
それへとあれれぇとお顔を引き締めてしまう。
だって、

「あぎょん、あぎょん〜〜〜、しゃかしゃまだよ〜。」
「くうちゃん?」

今日は天から遅くに来たったものだから、
お昼を過ぎてから遊びに出てった仔ギツネ坊や。
あぎょ…もとえ、阿含さんにも増えたお尻尾を見せるのと、
嬉しそうに駈けてった筈なのに。
何でまたそんな憤慨したまんまで、
しかも前後反対に抱えたりしてますか。

「逆さに吊っとったら、それこそ容赦しねぇがな。」
「お師匠様、お師匠様。」

挑発しないのとこそり窘めたセナくんの声なぞ、
聞いちゃあいない蛇神様で。
どうでもいいが、このお屋敷の結界ってそうも簡単にくぐれるの?
そういえば、かっちかちの硬く封じちゃいないと言ってはいたけど、
あまりに容易く侵入してませんかこの人ってば。

「一大事にゃあこまかい技も素早くこなせるほど、咒の級が上がるもんなんだよ。」
「そういうことがないとは言わんが、お前、幣をぶっちぎって来やがったろ。」

縄髪が少し焦げてるぞ、うっせぇな…と、
どこまでがお約束だか、そんなやり取りを交わしてから、

「だから。俺が訊いてんのはこいつのこれだ。」

能楽師が構えてる鼓よろしく、あ、あれは肩の上か?
小脇に抱えてきたくうちゃんの、
今日は浅い青の袴姿なお尻を指差す阿含さんで。

「…観て判らんか。それは尻尾というのだ。」
「だ〜か〜ら。」

ちなみに、天世界の父上である玉藻様から、
元の大きさに縮める術も習ってきたのよと胸を張ってたおちびさんで。
ここから飛び出してった時は、確かに前と同じ大きさのお尻尾だったのに。
今の今、坊やの尻尾は、2つに分かれて嵩も増した状態へと戻っており。

『あんね、あぎょんがほいって術を解いちったの。』

何を隠し事してやがるかと、そんなしてしまったらしいのだけれど。
そうして現れたのがあまりに可愛らしい姿だったので逆上したか、

「違うわっ!」
「おばさんの焚き付けへ、いちいち興奮してんじゃねぇよ。」

うっさいわねっ。
(笑)

「尻尾が増えるなんて、どうして黙ってやがったんだっ!」
「ああ? 何でまたお前にいちいち言っとかにゃあならねんだ。」

平仄の合わねぇことを言ってくんじゃねぇと、
煙たそうに眉間を狭めた蛭魔だったものの、相手もそこは負けてはおらず、

「いいか? こういう一生に一度ってもんはな、
 その瞬間に居合わせねぇと意味がねぇんだよっ。」

そんな、普通一般の親馬鹿なお父さんのような言いようを、
今から八代先まで祟ってやるぞといわんばかりの、モノホンの迫力で言わんでも。
どろどろおどろと不気味な生臭い風とか呼ぶんじゃありませんての。

「進が出てきたら、また話がややこしくなるだろがよ。」
「あ、大丈夫ですよォ。」

それへはセナくん、にっこり笑い、

「阿含さんは知らない人じゃありませんものvv」

いつぞやは助けて貰いもしましたし、と。
真の正体は知らないままだろに、
すっかりと馴染んでいるセナくんもセナくんで。

 “…まあ、いいんだが。”

いいのか?
(苦笑)

「大体だな、そいつのその尻尾に関しちゃあ、
 俺たちどころか大元の親父様たちも思ってもみなかった早さだってんだ。
 誰にも予測できなかったんだから知らせようがなかろうが。」

葉柱さんも同じように、いやさ、向こうさんは泣きついたことなので、
またかとややうんざりとしたお顔になった蛭魔さん。

「本当ならば、まだまだ先の、
 せめて2,3年はかかろう話だったらしいんでな。」

やっと下ろしてもらえたのでと、
それでも蛇神様の足元にまといつき、
そうそうそうなのと相槌打ってる仔ギツネさんであり。


  ―― そんじゃあおチビ、俺と約束しな。
      なにを?
      今度、こういうことが起きそうになったら、何があっても俺を呼べ。

なかなか勝手なお言いようへ、
だが、深いところまでは考えなかったか、
小さな皇子は“いいよvv”と無邪気に頷いてやり。
そんならいいさと、
…もしかせずとも当人同士で話がついたのだろうこと、
わざわざ此処まで見せに来たんかと、
そのまま再び裏山へ戻ってった二人へどやしつけたお館様だったのはいうまでもない。


  いやはや、平和だよねぇ…。




  〜Fine〜 09.05.14.


  *こないだの騒動の後日談です。
   何で俺に教えないと、絶対に言ってくるんじゃないかと思いまして。
(笑)
   ホンマに平和だよねぇ。

めーるふぉーむvv ぽちっとなvv

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